「連立方程式の解を、グラフを用いて解け。」などという問題があります。なぜグラフを用いて連立方程式が解けるのか、あるいはなぜグラフを用いて解かなければならないのか、モヤモヤしている方もいるかもしれません。このブログでは一貫してイメージ豊かになる投稿を目指していますが、その「イメージ」とはグラフによるところが大きいです。本記事の感覚をしっかり持つことが今後の基礎であり、大切です。
ここでは、すぐ下にあるような通常の連立方程式は計算で解くことができる人を対象に、そのグラフ上の意味を再確認し、それにより通常ではない連立方程式で出てくる解の不思議さをグラフの観点から理解し、またより複雑な方程式の解にも応用できることを見ていきます。
連立方程式の解はグラフの交点
通常の連立方程式
次の問題を考えます。
次の連立方程式を解け。
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{l}
x-y=1\tag{1}\label{p937eq1}\\
x+y=3
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
式\eqref{p937eq1}の解は、まずは普通に解いてみてください。それは $(2, 1)$ です。そしてグラフは左のようです。
グラフがこのようになるのは、書かれているものをチェックすることは簡単ですね。方程式を満たすようなどこでもよいので(「任意の」という)2点を選び、それらがグラフ上の点であることを確認すれば十分です。例えば青のグラフなら式\eqref{p937eq1}の上側の方程式を満たす $(1, 0)$ と $(0, -1)$ の2点を通ることを確認すれば十分ですし、赤のグラフなら同様に $(3, 0)$ と $(0, 3)$ を通ることを確認すれば十分です。
そうすると、両者の交点は確かに式\eqref{p937eq1}の解である $(2, 1)$ になっていることが分かります。交点とは両方のグラフとも満たす点であり、連立方程式の解もまた、両方の式を満たす解であるので、両者は同じことを言っています。
そしてさらに強調したいことは、式\eqref{p937eq1}の解はたった一つしかないことがグラフを書くことによって直感的に理解できる、ということです。
さて、そうすると次のケースはどうでしょうか。
通常ではない連立方程式
連立方程式の解がない?
次の連立方程式を解け。
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{l}
x-y=1\tag{2}\label{p937eq2}\\
2x-2y=3
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
連立方程式を解こうとして式\eqref{p937eq2}の上の式を2倍すると、連立方程式は
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{l}
2x-2y=2\\
2x-2y=3
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
となるから、上の式から下の式を引くと、
$$0=-1$$
となり、$0$ が $-1$ に等しいという奇妙なことが起きています。
この奇妙なことを理解するには、やはりグラフを書いてみることです。グラフを書くと、
となります。この2直線は平行です。従って、どこまで行っても交点は無いのです。$0=-1$ という奇妙な計算結果は交点がないことを物語っています。すごくないですか?交点がないことを雄弁に物語ってくれています。
連立方程式の解が無数に(たくさん)ある?
次の連立方程式を解け。
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{l}
x-y=1\tag{3}\label{p937eq3}\\
2x-2y=2
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
先ほどと同様に式\eqref{p937eq3}の上の式を2倍すると、連立方程式は
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{l}
2x-2y=2\\
2x-2y=2
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
となるから、上の式から下の式を引くと、
$$0=0$$
となります。今度は $0$ は $0$ に等しいという、奇妙ではないですが、当たり前すぎることが起きています。
これが何を意味しているのかを理解するには、やはりグラフを書いてみることです。グラフを書くと、
となります。この2直線は重なっています。1本しか見えませんが、重なっているからです。これは、交点が無数にあることを意味します。$0=0$ という当たり前すぎる計算結果は解が無数にあることを物語っています。これもまた雄弁ですね。
なお、この場合も両者のグラフは平行であり、そのうちの「重なる」という特別な場合です。
まとめ
ここでは二元一次方程式(未知数が $x$ と $y$ の二つで一次式の方程式)とグラフについて見てきました。
式\eqref{p937eq1}は通常の二元一次方程式であり、この場合は交点(解)を持ち、またその解はただ一つだけであることがグラフを書くとにより直感的に理解できました。
式\eqref{p937eq2}と\eqref{p937eq3}はグラフを書くと平行となるような直線であり、この場合は交点(解)が無いか、無数にあることがグラフを書くことにより直感的に理解できました。
なお、式\eqref{p937eq2}や\eqref{p937eq3}のようにグラフが平行になることは、グラフを書かずとも $x$ と $y$ の係数を見ることにより判断できます。コツを示します。
左図のように式\eqref{p937eq2}や\eqref{p937eq3}の $x$ と $y$ の係数を横に並べたとき、方法1のようにその両者の比が同じなら平行です。私は方法2の方が好きなのですが、たすき掛けで同じ値になることを確認する、でもよいです。
より複雑な方程式の解
もちろんこれまで見たような二元一次方程式だけでなく、より複雑な方程式の解もグラフで直感的に理解できます。
例えばその実践的な例は、高校数学の範囲ではありますが下記の記事↓で扱っていますので、動画だけでも見てみて「そういうものか」と感覚をつかんでください。以下においても中学の範囲をあえて一部逸脱しながら、むしろそうすることによってより「そういうものか」という感覚をつかんでもらうことを目的にします。
最も単純な一元方程式でまずは感覚をつかむ:$x-3=0$
先ほどは二元一次方程式を扱いましたが、一元方程式(未知数が $x$ 一つの方程式)もほんの少し工夫をすることで同様に $x,\, y$ 平面上のグラフの交点として視覚化できます。
方程式 $x-3=0$ の解 $x$ を求めよ。また、グラフではどのように視覚化できるか?
$x-3=0$ の解はもちろん、$x=3$ です。ここの本題は後半です。どのように視覚化できるでしょうか?それには方程式をあえて次の連立方程式とみなします。
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{l}
y=x-3\\
y=0
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
グラフは下記のようになり、両者の交点の $x$ 座標が方程式の解になっています。
$y=0$ のグラフが書けない、という人を時々見かけますが、左図のようであり、非常に単純です。$x$ がどのような値をとったとしても $y$ の値は $0$ だと言っているのですから。
二次方程式で解のある状態:$x^2=4$
まずは普通に解のある状態を、そして次に解のない状態を体験します。
方程式 $x^2=4$ の解 $x$ を求めよ。また、グラフではどのように視覚化できるか?
$x^2=4$ の解はもちろん、$x=\pm 2$ です。ここの本題は後半です。どのように視覚化できるでしょうか?それには方程式をあえて次の連立方程式とみなします。
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{l}
y=x^2\\
y=4
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
グラフは下記のようになり、両者の交点の $x$ 座標が方程式の解になっています。
よくケアレスミスで $x^2=4$ の解は $x=2$ としてしまう場合がありますが、$x=-2$ も解です。左図のようにグラフの交点のイメージを持っていれば、そのようなケアレスミスも防げると思います。
二次方程式で解のない状態:$x^2=-4$
方程式 $x^2=-4$ の解 $x$ を求めよ。また、グラフではどのように視覚化できるか?
$x^2=-4$ の解は、無いですよね。これはどのように視覚化できるでしょうか?これまでと同じように与えられた方程式をあえて次の連立方程式とみなします。
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{l}
y=x^2\\
y=-4
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
グラフは下記のようになり、交点は存在しません。
実は高校数学ではこのような場合でも次のように無理やりに解を求めます。
$$x=\pm\sqrt{-4}=\pm 2\sqrt{-1}$$
とはいっても、$\sqrt{-1}$ などという数字は実数の世界には存在しないので、実数の範囲では解なしです。なお、この $\sqrt{-1}$ は $i$ と書き、虚数と言います。従って、虚数まで含めて解を求めれば、
$$x=\pm 2i$$
です。しかしこのように書いたとしてもそれは虚数であり、グラフに交点は現れません。
三元一次方程式の解:未知数が $x$, $y$, $z$ の3つの方程式
変数が三つになるとどうでしょうか。グラフはこれまでの平面から空間にランクアップします。
次の連立方程式を解け。またグラフではどのように視覚化できるか?
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{l}
x+y+z=6\tag{4}\label{p937eq4}\\
x-y+z=2\\
x+y-z=0
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
まじめに解くのは皆さんの練習にして、ここではそれが求まったとします。それは $x=1,$ $y=2,$ $z=3$ です。ここではそれが\eqref{p937eq1}で見たように唯一の解なのか、視覚的に確認します。難しいことを言わなければ、式\eqref{p937eq1}がグラフでは平面上の直線だったことに対応し、式\eqref{p937eq4}は空間上の平面になります。平面の方程式は高校範囲ですのでここでは次のアニメーションを見ながら「そういうものか」という感覚をつかんでください。平面が3つ出てきますが、それぞれ\eqref{p937eq4}の式をグラフ化したものです。
順番に見ていきます。
まず、$x+y+z=6$ のグラフは平面であり、左図のようです。平面は3点で決まるので、例えば左図が確かに $(6,0,0),$ $(0,6,0),$ $(0,0,6)$ を通っているな、と理解できれば完璧ですが、そこは高校範囲なので、ここでは左図のようになる、と理解しておきましょう。
次に、真ん中の式 $x-y+z=2$ のグラフを重ね書きします。橙の平面です。
そうすると青の平面と橙の平面の重なり部分が見えます。そこを青くすると左図のようになり、それは直線です。この直線は、青の式:$x+y+z=6$ と橙の式:$x-y+z=2$ の両方を満たす点の集合であり、この2式の連立方程式の解となっています。
2式の解が直線で表現できたところでこの直線だけ残し、元の2平面は見やすさのため消すことにします。そして最後の式 $x+y-z=0$ を重ね書きします。黄の平面です。
そうすると、左図のように平面に直線が刺さる形になります。そして刺さったところが $(1,2,3)$ であり、連立方程式の解です。
そしてさらには、こうしてできる交点は他にはないことは直感的に理解できるかと思います。
最後に、これら3平面の交線を全て書くとどうなるか、重ね書きしてみましょう。
青と橙の交線は青で、橙と黄の交線は橙で、黄と青の交線は黄で書いています。それら3つの交線が一つの点 $(1,2,3)$ で交わっていることが分かります。
さらに複雑な方程式
さらに複雑な方程式としてここでは円や球を取り上げます。
円と直線
次の連立方程式を解け。またグラフではどのように視覚化できるか?
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{l}
x^2+y^2=1\\
y=\displaystyle\frac{1}{2}
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
この方程式は中学の範囲で解けます。$y$ が定数なので単にそれを上の式に代入して $x$ について解けばよいです。その解は
$$x=\pm\frac{\sqrt{3}}{2}$$
となりますが、ここでは視覚化に注力します。グラフを書くと下図のようになります。
$x^2+y^2=1$ は円を表します。わかりやすいいくつかの点を取ってそれが方程式 $x^2+y^2=1$ を満たすことを確認してみてください。例えば、$(1,0)$ や $(0,1)$ は確かに方程式を満たしますので青のグラフ上の点です。
そこに $y=\displaystyle\frac{1}{2}$ のグラフを橙で書いています。そうすると交点は2つあることが分かります。もちろん、先に出した解 $x=\pm\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}$ がこれに対応します。
球と平面
次の連立方程式の解を視覚化せよ。
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{l}
x^2+y^2+z^2=1\\
x-y+z=1
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
この連立方程式は未知数が3つあるにもかかわらず式が2つしかないので解は交点としては現れず、交線として現れます。$x^2+y^2+z^2=1$ は先ほどの円のグラフの3次元版であり、球となります。これらをグラフに書くと下図のようになります。
球に平面が重なるので、交線は空間上に浮かぶ円になります。
最後に:計算も大事だがイメージも大事
計算自体は計算機ができますし、グラフもこのようにコンピュータに書かせることもできます。目の前のテストで点数を取るためには計算ができることが必要ですが、長い目で見れば計算ができることと同じくらい、いやそれ以上に、このようなイメージをいかに持てるか、使いこなせるかが重要です。
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