複素数は計算だけでなく、図形的なアプローチを活用することでより深く理解できます。本記事では、絶対値や四則演算の性質、さらに実数・純虚数となる条件を詳しく解説します。例題を通じて学習を進め、複素数の本質を視覚的に捉えられるようになりましょう!
絶対値
$$|z|^2=z\,\overline{z}$$
式で証明
$$z=a+b\,i$$
と置くと、
\begin{eqnarray}
z\,\overline{z} &=& (a+b\,i)(a-b\,i) = a^2+b^2\\
&=& |z|^2
\end{eqnarray}
イメージで理解
このような感じ↓です。
すなわち、もとあった $z$ に対して $\overline{z}$ は $x$ 軸に対称なところに位置します。

この両者を掛けるということは、
まずは角度で言えば、もとの複素数 $z$ の角度を $\overline{z}$ だけ回転させます。

その上でさらに大きさは両者の積になります。

出来上がった複素数(黄色)は実部だけを持っていますので、大きさの2乗という「実数」を表します。
この辺りの、演算による座標変換は↓の記事をご覧ください。
だから何?
$|z|^2=z\,\overline{z}$ であることは分かったけれども、「だから何?」という気持ちになっているかもしれません。
問題で与えられる条件で、$|z|=1$ のとき、というのがよくあります。これは原点を中心とした半径1の円を表しますが、これを見たらすかさず、
$$z=\frac{1}{\overline{z}}$$
が使えるかもしれない、と思いましょう。
これが $|z|^2=z\,\overline{z}$ の有力な使いどころの一つです。
例題
$|z|=1$ のとき、$z+\displaystyle\frac{1}{z}$ は実数であることを示せ。
早速 $|z|=1$ が出てきました。
この後の性質も使って解きますので、最後に解説します。
引っかかりやすい罠
$|z|^2=z\,\overline{z}$ は理解できたとしても、それをすっかり忘れて計算してしまうケースがあります。肝に銘じておきたい罠です。
$\alpha$, $\beta$ を複素数とするとき、
$$|\alpha+\beta|^2+|\alpha-\beta|^2=2(|\alpha|^2+|\beta|^2)$$
を示せ。
なんだ、左辺を展開すれば終わりでしょ、と考えて次のように進めてしまっては、罠にハマっています。
$$|\alpha+\beta|^2=|\alpha|^2+2\alpha\beta+|\beta|^2$$
正しくは、
$$|\alpha+\beta|^2=(\alpha+\beta)\overline{(\alpha+\beta)}$$
です。
これも、$\overline{(\alpha+\beta)}$ の続きの式変形にこの節の性質を使いますので、回答は後ろに持っていきます。
四則演算
ここはサラッと行きます。皆さんは頭の中で図形的な証明(イメージ)をしてみてください。
和と差
$\overline{z_1+ z_2}=\overline{z_1}+\overline{z_2}$
$\overline{z_1- z_2}=\overline{z_1}-\overline{z_2}$
積
$$\overline{z_1\,z_2}=\overline{z_1}\cdot\overline{z_2}$$
商
$$\overline{\left(\frac{z_1}{z_2}\right)}=\frac{\overline{z_1}}{\overline{z_2}}$$
実数・純虚数となる条件
実数となる条件
$$\overline{z}=z$$
イメージで理解
$z$ が実数ということの複素数平面上でのイメージは、
$z$ が実軸上にある
ということです。それに対して $\overline{z}$ は実軸に対して対称であり、すなわち
これもまた実軸上にある
ことになるため、両者は等しいです。
厳密にはこれの逆も示す必要がありますが、そこまではよいでしょう。使えることが重要ですので。
式で理解
$z$ が実数なら $a$ を実数として $z=a+0\, i$ と置ける。このとき $\overline{z}$ は
$$\overline{z}=a-0\, i$$
なので、$z=\overline{z}$。これも逆を示さないといけませんが、省略。当たり前の感覚をつかめればよいです。
純虚数となる条件
$$\overline{z}=-z$$
イメージで理解
$z$ が純虚数ということの複素数平面上でのイメージは、
$z$ が虚軸上にある
ということです。それに対して $\overline{z}$ は実軸に対して対称であり、すなわち
これもまた虚軸上にある
ことになりますが、反対側に行っているため負号が逆です。
式で理解
$z$ が純虚数なら $b$ を実数として $z=0+b\, i$ と置ける。このとき $\overline{z}$ は
$$\overline{z}=0-b\, i$$
なので、$\overline{z}=-z$。当たり前、と思えればそれでよいです。
垂直に交わる条件
$\displaystyle\frac{\alpha}{\beta}$ が純虚数
複素数平面上の点 $\mathrm{A}(\alpha)$, $\mathrm{B}(\beta)$ に対して
$$\mathrm{OA}\perp\mathrm{OB}$$
となる必要十分条件は、
$\displaystyle\frac{\alpha}{\beta}$ が純虚数
となること。
ここでは、厳密な証明というよりはイメージで理解することを目指します。すなわち、
$\displaystyle\frac{\alpha}{\beta}$ が純虚数
とはどういう状態なのかを考えます。
複素数の割り算は、この記事↓で見たように、
角度の引き算を意味します。別の表現で言えば、両者のなす角を求めています。
両者のなす角が $90^\circ$ であればよいわけで、それは純虚数を意味します。
具体例で確かめる
$\alpha=2+i$ に対し、$\beta=-2+4i$ は垂直です。割り算をすると逆回転され、その結果として虚軸に一致することでなす角が $90^\circ$ であったと分かります。
実際に計算すると、
\begin{eqnarray}
\frac{\alpha}{\beta} &=& \frac{-2+4i}{2+i} = \frac{-2+4i}{2+i}\frac{2-i}{2-i}\\
&=& \frac{-4+2i+8i+4}{5}\\
&=& 2i
\end{eqnarray}
となり、純虚数なのでなす角が $90^\circ$ であったことが分かります。
別の表現
これは、$\omega=\displaystyle\frac{\alpha}{\beta}$ と置いた時(すなわち上の例では $\omega = 2i$ となっているわけですが)、
$$\overline{\omega}=-\omega$$
もしくは
$$\omega+\overline{\omega}=0$$
と表現されることもありますが、同じことですね。純虚数と言えばここで扱いました。
また、この話題は2025年度の共通テストでも取り上げられました。↓の記事です。該当箇所はこちら。
例題
$|z|=1$ のとき、$z+\displaystyle\frac{1}{z}$ は実数
$|z|=1$ のとき、$z+\displaystyle\frac{1}{z}$ は実数であることを示せ。
実数であることの条件は、ここで述べています。
それを示す際に $|z|=1$ の条件を使うわけですが、それにはここの性質を用います。
そのほか、地味にこの性質も使っています。
解答
題意より、
$$\overline{\left(z+\frac{1}{z}\right)}=z+\frac{1}{z}$$
を示せばよい。
\begin{eqnarray}
\overline{\left(z+\frac{1}{z}\right)} &=& \overline{z}+\frac{1}{\overline{z}}\\
&=& \frac{1}{z}+z\qquad (\because |z|^2=z\,\overline{z}=1)
\end{eqnarray}
別解
強引に解くこともできます。$|z|=1$ の条件を
$$z=\cos\theta+i\,\sin\theta$$
と置き換える方法です。
[解] $|z|=1$ より $z=\cos\theta+i\,\sin\theta$ と置ける。$(0\le\theta<2\pi)$
このとき、$\overline{z}=\cos\theta-i\,\sin\theta$ であり、また
\begin{eqnarray}
\frac{1}{\overline{z}} &=& \frac{1}{\cos\theta-i\,\sin\theta}\\
&=& \frac{1}{\cos\theta-i\,\sin\theta}\frac{\cos\theta+i\,\sin\theta}{\cos\theta+i\,\sin\theta}\\
&=& \cos\theta+i\,\sin\theta
\end{eqnarray}
より、
\begin{eqnarray}
\overline{\left(z+\frac{1}{z}\right)} &=& \overline{z}+\frac{1}{\overline{z}}\\
&=& (\cos\theta-i\,\sin\theta) + (\cos\theta+i\,\sin\theta)\\
&=& 2\cos\theta
\end{eqnarray}
$|\alpha+\beta|^2+|\alpha-\beta|^2=2(|\alpha|^2+|\beta|^2)$
$\alpha$, $\beta$ を複素数とするとき、
$$|\alpha+\beta|^2+|\alpha-\beta|^2=2(|\alpha|^2+|\beta|^2)$$
を示せ。
$|\alpha+\beta|^2$ を安易に展開してはいけません。この性質に則って展開する必要があります。
解答
\begin{eqnarray}
|\alpha+\beta|^2 &=& (\alpha+\beta)\overline{(\alpha+\beta)}\\
&=& (\alpha+\beta)(\overline{\alpha}+\overline{\beta})\\
&=& \alpha\overline{\alpha}+\alpha\overline{\beta}+\beta\overline{\alpha}+\beta\overline{\beta}
\end{eqnarray}
同様に、
\begin{eqnarray}
|\alpha-\beta|^2 &=& (\alpha-\beta)\overline{(\alpha-\beta)}\\
&=& (\alpha-\beta)(\overline{\alpha}-\overline{\beta})\\
&=& \alpha\overline{\alpha}-\alpha\overline{\beta}-\beta\overline{\alpha}+\beta\overline{\beta}
\end{eqnarray}
よって、
\begin{eqnarray}
|\alpha+\beta|^2+|\alpha-\beta|^2 &=& \alpha\overline{\alpha}+\beta\overline{\beta}+\alpha\overline{\alpha}+\beta\overline{\beta}\\
&=& 2(|\alpha|^2+|\beta|^2)
\end{eqnarray}
まとめ
複素数の基本的な性質を見てきました。これらの性質は複素数平面をイメージすれば当たり前に感じられますね。これらの性質を当たり前にイメージでき、当たり前に使えるようになれば、複素数の計算問題や証明問題も楽に解けるようになります。
当たり前に思えてきたら、より実践的な問題として下記↓の軌跡の問題に取り組んでみてください。
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