公式も大事ですが、実はそれ以上に大事なのは公式を忘れても楽に求められるようになることです。必ずしも証明をマスターせよというわけではありません。証明は無駄に文字が多くてややこしいことが多いので、それよりもその発想を具体的な数値でイメージ通りに適用できることが重要です。
ここでは、過去の記事【垂線の足】,【直線に関して対称な点】を応用して「点と直線の距離」を求めます。内容的には重複しますがこちらには公式があるゆえにかえって公式を覚えようとして苦労している人を見かけるので、独立して記載しました。
ここの記事が理解できれば、3次元版の公式↓も全く同じことであると理解できるでしょう。
公式の確認とここで理解したい式
公式の確認
点と直線との距離には次の公式が与えられています。
直線 $ax+by+c=0$ と点 $\mathrm{P}(x_0,y_0)$ との距離 $d$ は、
$$d=\frac{|ax_0+by_0+c|}{\sqrt{a^2+b^2}}$$
ここで理解したい式:射影ベクトル
ここで理解したい式は↓です。
$$d=|\overrightarrow{\mathrm{PH}}|=\frac{|\overrightarrow{\mathrm{PQ}}\cdot\overrightarrow{n}|}{|\overrightarrow{n}|}$$
点 $\mathrm{H}$ は点 $\mathrm{P}$ から下した垂線の足です。点 $\mathrm{Q}$ は平面上の任意の点です。平面上ならどこでもよいです。$\overrightarrow{n}$ は法線ベクトルです。この式と上で述べた公式が一致すれば、この記事の目的は達成です。
公式で解く
まずは公式を用いて問題を解くとどうなるのかをここで示し、その後理解したい式を解説していきます。
直線 $y=2x+1$ と点 $\mathrm{P}(-1,4)$ との距離 $d$ を求めよ。
先に注意点を挙げるとすれば、直線の式は $ax+by+c=0$ の形にしておきましょう、ということです。
解
直線の式は $2x-y+1=0$ であるから、求める距離 $d$ は
$$\begin{eqnarray}
d &=& \frac{|2\cdot (-1)+(-1)\cdot 4+1|}{\sqrt{2^2+(-1)^2}}=\frac{5}{\sqrt{5}}\\
&=& \sqrt{5}
\end{eqnarray}$$
理解したい式:射影ベクトル
どこでもいいのであらかじめ直線上の点を一つ選んでおきます。扱いやすい数字を選びます。この場合は点 $\mathrm{Q}(0,1)$ としてみましょう。点 $\mathrm{Q}$ は直線上の点ならどこでもよいですが、その理由は解説で述べています。
解
直線 $l:2x-y+1=0$ 上の点の一つ $(0,1)$ を $\mathrm{Q}$ と置く。
直線 $l$ の法線ベクトルの一つを $\overrightarrow{n}$ と置くと、$\overrightarrow{n}=\begin{pmatrix}2\\-1\end{pmatrix}$。
ここで、$\overrightarrow{\mathrm{PQ}}=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}-\begin{pmatrix}-1\\4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1\\-3\end{pmatrix}$ であり、点 $\mathrm{P}$ から直線 $l$ に下した垂線の足を $\mathrm{H}$ と置くと、
\begin{eqnarray}
d &=& |\overrightarrow{\mathrm{PH}}| = \frac{|\overrightarrow{\mathrm{PQ}}\cdot\overrightarrow{n}|}{|\overrightarrow{n}|}\\
&=& \frac{\left|\begin{pmatrix}1\\-3\end{pmatrix}\cdot\begin{pmatrix}2\\-1\end{pmatrix}\right|}{\left|\begin{pmatrix}2\\-1\end{pmatrix}\right|}\\
&=& \frac{5}{\sqrt{5}}\\
&=& \sqrt{5}
\end{eqnarray}
解説
まずは一気通貫のアニメーションで解の気持ちを見てみましょう。
次に、ステップ・バイ・ステップで見ていきます。
1. 問題文の図示
まずは問題文の図示です。直線の方程式が $2x-y+1=0$ であることから法線ベクトルの一つ $\overrightarrow{n}$ は $\overrightarrow{n}=\begin{pmatrix}2\\-1\end{pmatrix}$ です。
点 $\mathrm{P}$ の座標は $(-1,4)$ で $\mathrm{H}$ が求めたい垂線の足です。
2. 法線ベクトルの始点を $\mathrm{P}$ に合わせる
法線ベクトル $\overrightarrow{n}$ と $\mathrm{P}$ を始点にしたベクトル $(\overrightarrow{\mathrm{PQ}})$ との内積を取るので、その様子がよくわかるように法線ベクトル $\overrightarrow{n}$ の始点を $\mathrm{P}$ に移動します。
ここでは $\overrightarrow{n}$ と $\overrightarrow{\mathrm{PH}}$ がぴったり重なってしまっていますが、それはたまたまです。一般には方向はそろっていますが長さは異なります。($\overrightarrow{\mathrm{PH}}$ の長さを求めるために、方向が同じである $\overrightarrow{n}$ を利用しているのです。)
3. $|\overrightarrow{\mathrm{PQ}}\cdot\overrightarrow{n}|=|\overrightarrow{\mathrm{PQ}}||\overrightarrow{n}|$
最終的には $|\overrightarrow{\mathrm{PH}}|$ を求めたいのですが、まずはダミー的に直線上の点 $\mathrm{Q}$ を持ってきて $\overrightarrow{\mathrm{PQ}}$ と $\overrightarrow{n}$ とで内積を取ります。
点 $\mathrm{Q}$ はダミーとはいえ、しっかりと直線上の点なので $\overrightarrow{n}$ との内積を取ることで $\mathrm{Q}$ は $\mathrm{H}$ に集約されていきます。
この、「集約されていく」という表現は、次の内積の計算をイメージ化したものです。
\begin{eqnarray}
\overrightarrow{\mathrm{PQ}}\cdot\overrightarrow{n} &=& |\overrightarrow{\mathrm{PQ}}||\overrightarrow{n}|\cos\angle{\mathrm{QPH}}\\
&=& |\overrightarrow{\mathrm{PQ}}|\cos\angle{\mathrm{QPH}}\cdot|\overrightarrow{n}|\\
&=& |\overrightarrow{\mathrm{PH}}||\overrightarrow{n}|\quad(\angle{\mathrm{QPH}}\le 90^\circ\;\text{のとき})
\end{eqnarray}
ここで $\angle{\mathrm{QPH}}>90^\circ$ のときも含めて書くと、
$$|\overrightarrow{\mathrm{PQ}}\cdot\overrightarrow{n}| = |\overrightarrow{\mathrm{PH}}||\overrightarrow{n}|$$
です。
4. $|\overrightarrow{\mathrm{PH}}| = \displaystyle\frac{|\overrightarrow{\mathrm{PQ}}\cdot\overrightarrow{n}|}{|\overrightarrow{n}|}$
$$|\overrightarrow{\mathrm{PQ}}\cdot\overrightarrow{n}| = |\overrightarrow{\mathrm{PH}}||\overrightarrow{n}|$$
より
$$|\overrightarrow{\mathrm{PH}}| = \frac{|\overrightarrow{\mathrm{PQ}}\cdot\overrightarrow{n}|}{|\overrightarrow{n}|}$$
となります。
公式の証明
$$|\overrightarrow{\mathrm{PH}}|=\frac{|\overrightarrow{\mathrm{PQ}}\cdot\overrightarrow{n}|}{|\overrightarrow{n}|}$$
が理解できれば公式を証明するのは簡単です。用いる条件式を整理すると、
- 直線 $l:\;ax+by+c=0$
- 点 $\mathrm{P}:\;(x_0,y_0)$
- 法線ベクトル $\overrightarrow{n}=\begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix}$
- 直線上の点 $\mathrm{Q}:\;(x_1,y_1)$
$$\cdots\; ax_1+by_1+c=0\;\text{を満たす}\tag{1}\label{p1571eq1}$$
なので、
\begin{eqnarray}
d &=& |\overrightarrow{\mathrm{PH}}| = \frac{|\overrightarrow{\mathrm{PQ}}\cdot\overrightarrow{n}|}{|\overrightarrow{n}|}\\
&=& \frac{\left|\begin{pmatrix}x_1-x_0\\y_1-y_0\end{pmatrix}\cdot\begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix}\right|}{\left|\begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix}\right|}\\
&=& \frac{|a(x_1-x_0)+b(y_1-y_0)|}{\sqrt{a^2+b^2}}\\
&=& \frac{|ax_0+by_0+c|}{\sqrt{a^2+b^2}}\quad(\because\eqref{p1571eq1})
\end{eqnarray}
別解:ベクトル方程式
ベクトル方程式は応用が利いて便利なので使えるようになると強いです。
解
直線 $l: 2x-y+1=0$ の法線ベクトルの一つを $\overrightarrow{n}$ と置くと、$\overrightarrow{n}=\begin{pmatrix}2\\-1\end{pmatrix}$。
点 $\mathrm{P}(-1,4)$ から直線 $l$ に下した垂線の足を $\mathrm{H}$ と置くと直線 $\mathrm{PH}$ の方程式は媒介変数 $t$ を用いて次のように表せる。
$$\begin{pmatrix} x\\ y\end{pmatrix} = \begin{pmatrix} -1\\ 4\end{pmatrix} + t\begin{pmatrix} 2 \\ -1\end{pmatrix}$$
これを直線 $l$ の式に代入して、
\begin{eqnarray}
\begin{array}{c}
2\, (-1+2t)-(4-t)+1=0\\
\therefore\; t=1
\end{array}
\end{eqnarray}
ゆえに、
\begin{eqnarray}
|\overrightarrow{\mathrm{PH}}| &=& 1\left|\cdot\begin{pmatrix} 2\\ -1\end{pmatrix}\right|\\
&=& \sqrt{5}
\end{eqnarray}
まとめ
公式は覚えていれば速く解けて便利ですが、覚えづらい場合が多く、またその意味を、イメージを理解していなければ適用ミスにつながります。
従って、「公式を忘れても楽に解ける」という状態を作ることが重要で、そのような勉強をするとよいです。そうすれば公式を使う場合でもイメージを持って正しく使えますし、もし忘れても狙い通り大丈夫な状態になっています。
このような基礎がしっかりと理解できていればさらに応用的な内容も全く違和感なく理解できます。↓の記事は本記事の空間版ですが、全く同じです。
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