ここでは大学入試に出がちな少し難し目の問題を解きます。ざっと眺めるだけで力がつくよう、問題はシンプルにしていますが奥深い内容です。
実際、2025年度の共通テストにもこの内容に類する問題が出ています。
問題の共通部分
次の問題を考えていきます。
レール: 抵抗なし、平行。
金属棒 a,b: 抵抗値 $R_a,\; R_b$。
長さは $l$ で質量は $m$。
レールに垂直に滑らかに動く。
磁界: 磁束密度 $B$ で一様。

一方の導体棒のみを動かす
aを固定してbを右向きに一定の速さ $v_0$ で動かす。このとき、
(1) 回路に発生する起電力 $V$
(2) 回路に流れる電流 $I$
(3) a,bの両端にかかる電圧 $V_a$, $V_b$
(4) a,bが磁界から受ける力 $F_a$, $F_b$
(5) bを一定の速度 $v_0$ で運動させるための外力 $F_0$ と仕事率 $P_0$
を求めよ。向きはひとまず考えなくてよい。

一見難しそうではあるのですが、ほぼ公式通りです。ので、解はシンプルに記載し、その後の解説で言葉を足していきます。
解
(1)
$$V=v_0Bl$$
(2)
$$I = \frac{V}{(R_a+R_b)} = \frac{v_0Bl}{R_a+R_b}$$
(3)
$$V_a = IR_a = \frac{R_a}{R_a+R_b}v_0Bl$$
$$V_b = IR_b = \frac{R_b}{R_a+R_b}v_0Bl$$
(4)
$$F_a = lIB = \frac{(Bl)^2}{R_a+R_b}v_0$$
$$F_b = lIB = \frac{(Bl)^2}{R_a+R_b}v_0$$
(5)
棒bが磁界から受ける力 $F_b$ と同じだけの力を加えればよいから、
$$F_0 = F_b = \frac{(Bl)^2}{R_a+R_b}v_0$$
仕事率はこれに速さ $v_0$ を掛けて、
$$P_0 = F_0v_0 = \frac{(v_0Bl)^2}{R_a+R_b}$$
解説
回路に生じる起電力 $V=v_0Bl$ (問題(1))や、導体棒が磁界から受ける力 $F_a=F_b=lIB$ (問題(4))は公式として覚えておきましょう。または下記の記事↓に従い、すぐに導けるようにしておきましょう。
その上で、回路に流れる電流 $I$ (問題(2))や抵抗にかかる電圧 $V_a$, $V_b$ (問題(3))は回路の基本として難なく解きたいです。
そして、導体棒を一定の速さ $v_0$ で動かせているのは、導体棒が磁界から受ける力 $F_a$ と外力 $F_0$ がつり合っているから(問題(5))です。
仕事率 $P_0$ (問題(5))はおまけですが、力の大きさに速さを掛けて得られます(向きが同じ場合)。なお、この仕事率は次の計算からわかる通り、ジュール熱に等しいです。
\begin{eqnarray}
I^2(R_a+R_b) &=& \left(\frac{v_0Bl}{R_a+R_b}\right)^2\, (R_a+R_b)\\
&=& \frac{(v_0Bl)^2}{R_a+R_b}
\end{eqnarray}
つまり、外力がした仕事がそのままジュール熱になっているということです。この発想に類するものが後ほど(7)に出てきます。
一方を動かし、他方が追いかける
導体棒bが一定速度 $v_0$ で右側に動いている前問の状態から導体棒aの拘束を解いた。
(6) このあとの導体棒aの振る舞いをその理由と共に簡潔に述べよ。
ただし、導体棒bは一定速度 $v_0$ のまま。
解
(6)
振る舞い
導体棒aが右に動き出し、速度が $v_0$ になったところでその速度で右側に動き続ける。
理由
拘束中及び解いた瞬間には、前問(4)より導体棒aには右側に $F_a$ の力が働いている。従って、拘束を解けば導体棒aは右側に動き出す。

右側に動き出した導体棒aには誘導起電力が生じる。

この誘導起電力は回路の電流を小さくする向きに働いており、導体棒aが加速するにつれ電流は小さくなる。
そして、導体棒aの速度が $v_0$ になると電流は $0$ になり磁界から力を受けなくなるため、その速度を保つ。

解説
この振る舞いは正確には次のように微分方程式を解きますが、これは大学範囲のため、高校範囲では上記が解答となります。
以下は参考:実際に微分方程式を解く
運動方程式と電磁力の式より
\begin{eqnarray}
\left\{\begin{array}{l}
m\displaystyle\frac{dv}{dt}=liB\cdots ①\\
i=\displaystyle\frac{v_0Bl-vBl}{R_a+R_b}\cdots ②
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
②を①に代入して $t=0$ のとき $v=0$ を用いると、
\begin{eqnarray}
m\frac{dv}{dt} &=& \frac{(Bl)^2}{R_a+R_b}(v_0-v)\\
\therefore\;v &=& v0\left(1-e^{-\frac{(Bl)^2}{m(R_a+R_b)}t}\right)
\end{eqnarray}
このグラフは下記のようになります。ミソは、
$t\to\infty$ のとき、$v\to v_0$
です。

動かしていた導体棒を止める
導体棒a,bがともに等速度 $v_0$ で運動しているとき、突然bを停止させ固定した。このとき、aは次第に減速して停止した。
(7) aが減速し始めてから停止するまでの間に回路に発生するジュール熱 $Q$ はいくらか?
解
(7)
エネルギー保存の法則より、導体棒が持っている運動エネルギーがジュール熱 $Q$ に変わったと考えられるから、
$$Q=\frac{1}{2}mv_0^2$$
解説
真面目に解くと次のようになりますが、これも高校範囲を超えるので、エネルギー保存の法則を用いることで十分です。エネルギー保存の法則は、そもそも運動方程式を式変形したものに過ぎないからです。↓の記事を参考にしてください。
真面目に解く
ある時刻 $t$ において導体棒aの速度が $v$ だとすると、このときの回路で消費する電力 $p$ は、
$$p=\frac{(vBl)^2}{R_a+R_b}\cdots ①$$
一方、導体棒aの運動方程式は、(4)と同様に考えて、
$$m\frac{dv}{dt}=-\frac{(Bl)^2}{R_a+R_b}v\cdots ②$$
求めるジュール熱 $Q$ は、回路で消費する電力 $p$ の時間総和なので、①を $t=0$ から $t=\infty$ まで積分すれば得られる。
ここで式の途中で②を代入することに注意して、予め②を次のように変形しておく。
$$m\frac{dv}{dt}\cdot v\, dt=-\frac{(Bl)^2}{R_a+R_b}v\cdot v\, dt\cdots ②^\prime$$
ゆえに、
\begin{eqnarray}
Q &=& \int_{t=0}^{t=\infty} p\, dt = \int_{t=0}^{t=\infty} \frac{(vBl)^2}{R_a+R_b}\, dt\\
&=& -\int_{v=v_0}^{v=0}mv\, dv\quad\because ②^\prime\\
&=& -\frac{1}{2}m\left[v^2\right]_{v_0}^0\\
&=& \frac{1}{2}mv_0^2
\end{eqnarray}
まとめ
電磁誘導の典型問題を考えました。公式そのものの部分もありますし、そこから発展させて考える部分もありますが、おおむねこの形を基本として展開されていきます。
展開の例としては、今回は導体棒bを何らかの外力で引っ張っていますが、これが坂道重力であるもの、また今回の回路は抵抗のみでしたが、これがコンデンサやコイルになっているものです。
それらを解く際にも、ここの問題が基礎になりますので、何回も目を通して慣れてください。
一つの展開例として、2025年度の共通テストがあります。
また、誘導起電力と電磁力の公式については下記の記事↓で詳しく扱っています。
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