【燃費の物理】電気自動車(BEV)はなぜ航続距離が短いのか 自動車エンジニアが物理で徹底解説

日常の数理

 電気自動車(BEV)は環境にやさしい次世代のクルマとして注目されていますが、「航続距離が短い」という弱点がよく指摘されています。
なぜBEVは長い距離が走れないのでしょうか? 燃費が悪いから?
この記事ではそのような疑問に対し、自動車エンジニアの視点から物理的根拠に基づいて航続距離の正体を深堀りします。

BEVの航続距離が短い理由は「2つ」ある

 BEVの航続距離が短い理由は次の2つに分類できます。

  • カタログ値そのものが短い
  • カタログ値より実走行が短くなる

まずはカタログ値そのものが短い理由から見ていきます。

カタログ値そのものが短い理由

HV・FCEV・BEVの航続距離を比較するとBEVが最も短い

 代表的な車種で比較すると、BEVの航続距離は明らかに短いことが分かります。航続距離はそれぞれの車種の燃費と電池・タンク容量から求めました。

車種燃費電池・タンク容量航続距離
プリウス(HV)28.6[km/L]43[L]1230[km]
MIRAI(FCEV)146[km/kg]5.6[kg]818[km]
bz4x(BEV)128[Wh/km]71.4[kWh]559[km]

確かにBEVであるbz4xは最も航続距離が短いです。それに対してプリウスの燃費の良いこと。bz4xの倍以上の航続距離があります。

燃費の単位をガソリン換算で統一して比較

 燃料の単位がバラバラだと比較しにくいため、すべてガソリン換算で統一します。
そのためにはまずはエネルギーの単位を[J]に戻します。例えばガソリン1Lは33.3MJのエネルギーを有しています。水素や電気についても同様に考えると次の表になります。

燃料熱量[J]ガソリン換算[L]
ガソリン1L33.3M1
水素1kg121M3.63
電気1Wh36000.000108

これを使って航続距離の燃費をガソリン換算すると:

  • MIRAI:40.2km/L
  • bz4x:72.2km/L

つまり、BEVは燃費そのものは非常に良いのです。

BEVは燃費は良いが「タンク容量(電池容量)」が極端に小さい

 同じようにタンク容量(電池容量)についてもガソリン換算します。これは航続距離と燃費から求めました。ガソリン換算したタンク容量を比較すると、BEVの弱点が明確になります。

車種燃費タンク容量航続距離
プリウス(HV)28.6[km/L]43[L]1230[km]
MIRAI(FCEV)40.2[km/L]20.3[L]818[km]
bz4x(BEV)72.2[km/L]7.7[L]559[km]

これを見ると、燃費の面ではBEVはHVの2.5倍程優れていますが、一方でタンク容量が1/6程度となっており、BEVはエネルギー貯蔵に問題があることが分かります。

燃費は良いのに、タンク容量が小さすぎる。これがBEVの航続距離が短い最大の理由です。

バッテリーは重く、環境負荷も大きい

 タンク容量が小さいうえ、重量も重いのがバッテリーの特徴です。
bz4xのバッテリー重量は480kg1と、ガソリンタンク(約20kg)の実に25倍です。

そして、これだけ重いのはレアメタルをこれだけ使用しているということでもあり、急激すぎるBEV化はそれはそれで環境負荷が大きいと考えられます。

発電効率を考慮するとBEVの実行燃費は半減する

 もう一つ、大事な視点があります。BEVであるbz4xはガソリン換算で72.2[km/L]とかなり低燃費ですが、これは “電気として車に届いた後” の数値です。

電気は火力発電が中心で、発電効率は約50%。つまり、電気になるまでに半分のエネルギーが失われます。

900423099.pdf (env.go.jp)

したがってbz4xの燃費は:

  • 電気ベース:72.2km/L
  • 発電効率込み:36.1km/L(上記の半分)

ということになります。

まとめ

 このように考えると、プリウスの28.6[km/L]の燃費に対して25%程燃費の良い36.1[km/L]を得るために航続距離を大幅に犠牲にし、また大量の鉱山を掘り起こさなければならないBEVを一気に普及させるのはまた弊害も大きそうだと感じます。BEVの真価が発揮されるのは電気をクリーンエネルギーで作れるようになってから、また電池も環境負荷の少ない材料で、かつ軽く容量の大きなものが作れるようになってから、ということになりそうです

 しかしこのように燃費的にポテンシャルのある自動車であることもまた事実。つまり、現時点においてBEVの航続距離が短いのは、

電気になってからの燃費は圧倒的に良い電池の容量が極端に少ないから

ということになります。

カタログ値より実走行が短くなる理由

 次はカタログ値に対して航続距離が短いことについて考えてみます。これはつまり、カタログでは559km走ると言っていたのに実際にはそこまで走れなかった、というようなことです。

実走行ではカタログ値の7~8割しか走れない

 実際の検証動画でも、BEVはカタログ値の7~8割しか走れません。(carwow日本語さんの動画)

車種カタログ値[km]実距離[km]割合[%]
メルセデス EQS74652172
BMW iX61248882
テスラ モデル362646775
フォード マスタング59946477

最大の理由は「走行速度」

 この理由の大きな部分は走行速度にあります。カタログ値は一般にはWLTCモード(下図)で測定した値が使われます。

Microsoft PowerPoint – 05【資料53-2】WLTCの国内導入について(最終版) (env.go.jp)

 カタログ値(WLTCモード)は低速~中速が中心。しかし実際に航続距離を気にする場面は高速道路。空気抵抗は速度の2乗で増えるため、高速道路では損失エネルギーが急増します。

実際、下記記事↓で示した走行抵抗の式:

\begin{eqnarray}
F_{air} &=& 0.05V^2\\
F_{roll} &=& 1.0V+100
\end{eqnarray}
を用いて走行抵抗のエネルギー(損失)を求めると次のグラフのようになります。

  • WLTC:14.1kWh/100km
  • 100km/h定常:19.4kWh/100km

航続距離は約72%に低下します。

走行モード損失の逆数[100km/kWh]
WLTC1/14.11
100km/h定常1/19.40.72

このように、カタログ値であるWLTCモードよりも速い速度で走ってしまうと思ったほど航続距離が伸びない、ということが起こります。

速度を高めるとカタログ値よりも航続距離は伸びない

冬に航続距離が特に短くなる理由

BEV特有の要因(暖房・電池性能低下)

暖房が電気を大量消費

 また、BEVは冬に弱いとよく言われます。それは、暖房に電気を使うからです。例えば暖房に2kWの電力を使用するとすると、

  • 80[km/h]の定常走行に要するパワーが11.1[kW]
  • 100[km/h]では19.4[kW]

なので約20%~10%程燃費が悪くなると予想できます。速度が遅いと燃費の悪化割合はさらに顕著です。

電池性能低下

レクサス公式によると:

リチウムイオン電池の特性上、外気温が低くなると航続距離が減少する傾向があります。外気温20℃と-5℃では、最大55%程度航続距離が減少する場合があります

LEXUS BEV|BEVのご留意事項

とあります。

ここまではいろいろな人が指摘をする冬場に弱い理由ですが、もう一つ忘れてならない重要なポイントがあります。

全車共通の要因(空気密度の上昇)

 もう一つ、冬場に燃費を悪化させる忘れがちな理由が、空気の密度が大きくなる、です。30℃と0℃の空気密度を比べると、30℃に比べて0℃の場合は約11%密度が大きくなります。

温度1気圧密度[kg/m$^3$]割合
30℃1.1651
0℃1.2931.11

密度が高くなった分に比例して空気抵抗が大きくなるので、冬場は1割程度の燃費悪化が想定されます。ただし、これはBEVに限りません。

エンジニア視点でのBEVのメリット

 これまで、BEVは航続距離が短いとデメリットの面を述べてきましたが、決して悪い面ばかりではありません。BEVは重たいことを除けば次の観点から基本性能は高いです。

重量配分がよく、車両応答性が高い

 一般的に車両の重量配分が前後で偏っているよりも半々である方がハンドル操作に対して車両が機敏に応答します。

エンジンがある車両だとエンジンはたいてい前方についているため、前重心になりがちです。それに対してBEVにはエンジンは無く、また重たい電池は比較的真ん中に置くことができるため、重量配分を半々にしやすいです。

そのため、BEVは重量配分がよく、その分、車両応答性をよく設計できます

モーター駆動で発進性能がよい

 一般的にエンジンは低速に弱く、モーターは低速から高トルクで回転できるため、発進性能が良いです。

エンジン音・振動が無い

 BEVにはエンジンが無く、エンジンよりもモーターの方が動力音や振動は小さいです。

まとめ

 電気自動車(BEV)のデメリットの一つを航続距離が短いという観点から深堀りして解説しました。

 BEVはこの表にあるようにカタログ値で比較しても航続距離が短いです。

車種燃費電池・タンク容量航続距離
プリウス(HV)28.6[km/L]43[L]1230[km]
MIRAI(FCEV)146[km/kg]5.6[kg]818[km]
bz4x(BEV)128[Wh/km]71.4[kWh]559[km]

この理由は、電池・タンク容量が小さいことです。燃費や電池・タンク容量をガソリン相当に換算するとこの表のようになります。

車種燃費タンク容量航続距離
プリウス(HV)28.6[km/L]43[L]1230[km]
MIRAI(FCEV)40.2[km/L]20.3[L]818[km]
bz4x(BEV)72.2[km/L]7.7[L]559[km]

BEVはタンク容量が小さいですが燃費自体は良いです。しかしながらこれは電気になった後の数値であることに注意が必要です。電気にするために約50%のエネルギーを失っているため、実質的な燃費は72.2[km/L]から36.1[km/L]に落ちます。

BEVを製造するにはレアメタルを鉱山から大量に掘り起こさないといけないことを考えれば、急激な普及は環境負荷が大きいとも言えると思います。

 また、BEVはカタログ値ほど航続距離が伸びません。だいたいカタログ値の7-8割程度です。この大きな理由は走行速度です。通常、航続距離を気にするような長距離運転時には高速走行を行いますが、カタログ値の測定条件はそこまで高速ではないためです。ただしこれはBEVに限りません。HVでも同様です。

さらにBEVは冬に弱いです。それは暖房に電気を使用するため、そして電池の性能が落ちるためです。加えて全車共通ではありますが、冬は夏よりも空気密度が約1割高いためにその分空気抵抗が大きくなり、燃費が落ちます。

 一方で、BEVは車両性能的にはポテンシャルが高いです。重量配分が半々にしやすいため車両応答性がよく、モーター駆動のため発進性能がよく、またエンジンがないためエンジン音や振動もない、などです。

 日本はBEVが遅れているとか、特にマスコミは過激な報道をしがちですが、このようにBEVのいい面もよくない面も理解した上で報道しているのか、そういう着眼を持ってもらえると幸いです。

  1. 駆動用バッテリー回収・リサイクルマニュアル(リチウムイオン電池) (global.toyota) ↩︎

コメント

  1. 修一 より:

    HV,FCEV,BEVの比較をわかりやすく解説をしていただきありがとうございます。
    私は年に数回ですが高専生に「100年に一度の変革期 ,CASE,MAASなど」について就職・進学前の学生に講演をしています。今までは、エネルギ機関などの資料で、原油精製からのエネルギー効率からのEVの優位性を説明していましたが、具体的でなかったところがありますので、ここのWebでご説明の内容を具体的に数字を挙げて説明をしたいと思います。使わせていただいていいでしょうか?
    (ここのWebは土居先生から教えて頂きました。)

    • かっしー かっしー より:

      コメントありがとうございます。土居先生にはいつもお世話になっております。
      はい、ぜひお使いください。学生さんにお役に立てること、この上なくうれしいです!
      その他のページについてもお役に立てる部分がありましたらぜひお役立てくださいませ。

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